結局、彼は左利きだったのか?

失恋は吹っ切れた。もう完全に。

絶対引きずるし絶対後悔するとか思っていたけど、人間そんなに暇じゃない。

働くし、家事をするし、ごはんを食べるし、カルピスも飲む。ああ、おいしい。

そういう日常に、非日常イベントの失恋はあっけなく流されていった。

 

あ、吹っ切れたな、という瞬間は、ほんとに不意に訪れた。

一人でドトールにいてぼーっとミラノサンドAを食んでいた時、店員さんがコーヒーを注ぐ動作がふと目に入った。

Sサイズのカップに器用にピタッと適量注ぐその様にぼんやりながら惚れ惚れしていた時、ふと疑問が湧いた。

あれ、あの人、どっち利きだったっけ。

彼が右利きだったか左利きだったか、思い出せなくなったのだ。

別に彼がコーヒー好きだった訳でも、ドトールやスタバの店員だった訳でもない。

人の動作を見て、本当に不意に思った。

薄れている。印象が。

なくなっている。興味が。

恐ろしいことに、顔まで思い出せなくなっていた。

 

人間の記憶って、すごい。

あっけなく消えていく。

ミラノサンドAを口に含みながら、今回の失恋については完全に吹っ切れたと確信した。

 

でもこれって、自分も相手から同じように忘れられるって事だ。

それは恋人じゃなくても、友達だとしても。

人の記憶容量なんて限界があるんだから、使わない記憶は容赦なく消されていく。

きっとわたしもそうやって色んな人から容赦なく消されてきたのだろうし、

同様にわたしも容赦なく消してきた。悪い事は、2倍の速度で。

 

だからこそ思う。

親友や好きな人、大切にしたい人の記憶には残りたい。

強い印象でガツンと残すもいいだろうし、小さな印象をコツコツ残してもいいだろう。

とにかく相手の記憶の隅っこに居場所が欲しい。

で、ふとした時に「会いたいな」とか「連絡してみようかな」と思い出してもらえたら最高だ。

 

という事を考えているうちに、年が明けた。

2019年とかもう未来じゃん。こわ。

今年はきちんと文章を書きたいな。書くにはインプットが必要。

本もたくさん読みたいし、本じゃなくてもいい、文章にとにかくたくさん触れたい。

あとは、去年断念したウクレレをもう一度始めよう。

公園でウクレレ弾きながら歌うんだ。なんかいいじゃんそういう週末。

よし、明るい未来が見えてきた。

 

彼が何利きだったかは思い出せないけど、もうこの際どうでもいいや。